はじめに|電車に乗れない苦しさは、経験した人にしか分からない
パニック障害になってから、私は電車に乗ることが怖くなりました。
最初は急行電車が苦手になり、やがて普通電車でも不安を感じるようになりました。ついには、駅と駅の間が5分程度の区間でさえ、乗ることをためらうようになったのです。
「途中で発作が起きたらどうしよう」
「次の駅まで降りられなかったらどうしよう」
「周囲の人に迷惑をかけてしまったらどうしよう」
そんな考えが頭から離れなくなりました。
一度は認知行動療法に取り組み、各駅停車から新幹線、そして飛行機まで乗れるようになりました。仕事で沖縄へ出張するという、以前なら考えられなかった経験もできました。
ところが、その後、再び電車や飛行機を避けるようになりました。
20年以上パニック障害と向き合ってきた私の経験は、順調な回復の物語ではありません。前に進めた時期もあれば、後戻りした時期もあります。
この記事では、電車に乗れなくなった頃のこと、認知行動療法との出会い、少しずつ挑戦してきた過程、そして再発後にもう一度取り組んでいることを紹介します。
今、電車に乗ることが怖くて悩んでいる方や、パニック障害について知りたい方に、私の経験が何かの参考になれば幸いです。
私が電車に乗れなくなった理由
怖かったのは、発作が起きたときに逃げられないこと
私にとって、電車の何が怖かったのでしょうか。
それは、乗車中に具合が悪くなっても、すぐに降りられないことでした。
駅に停車している間なら、降りることができます。しかし、駅と駅の間を走っているときは、次の駅まで待たなければなりません。
その間に発作が起きたらどうしよう。途中で耐えられなくなったらどうしよう。
まだ何も起きていないのに、先のことを考えるだけで不安が強くなっていきました。
そして、体の変化にも敏感になりました。
少しでも動悸を感じると、「発作が始まるのではないか」と考えてしまいます。すると、ますます自分の体に意識が向き、不安が強くなる。そんな悪循環に陥っていました。
急行から普通電車へ、そして短い区間も怖くなった
最初から、すべての電車に乗れなかったわけではありません。
まず苦手になったのは、次の駅までの時間が長い急行電車でした。そこで各駅停車を選ぶようになりました。
しかし、次第に普通電車でも不安を感じるようになり、駅間の時間を調べたり、乗車時間をできるだけ短くしたりするようになりました。
それでも不安はなくなりませんでした。
「この区間なら大丈夫」と思っていた場所も、いつの間にか怖くなる。もっと短い区間なら乗れるだろうと考えても、そこでも不安を感じる。
私の場合、避ける場所が少しずつ増えていきました。
電車に乗るための工夫をしているつもりが、いつの間にか、乗れる範囲を狭めていたのです。
回避すれば安心できる。でも、不安は残った
電車が怖くなると、できるだけ不安を感じない方法を探すようになります。
私も、急行を避ける、各駅停車を選ぶ、遠回りのルートを使う、駅間の時間を調べるなど、さまざまな工夫をしていました。
もちろん、その瞬間は安心できます。
ところが、回避を続けていても、「次に乗るときは大丈夫だろうか」という不安は残りました。
そして、以前は乗れていた区間まで怖くなることがありました。
この経験を通じて、私は「不安を感じないようにすること」だけでは、状況が変わらない場合もあると知りました。
ただし、ここで伝えたいのは、怖くても無理に電車に乗るべきだということではありません。
私自身、ホームまで行って引き返したことも、途中で降りたこともあります。そのときの状態によって、できることは違いました。
大切なのは、回避してしまった自分を責め続けることではなく、必要に応じて専門家の支援を受けながら、次にどうするかを考えることだと感じています。
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認知行動療法との出会い
私が電車に再び挑戦するきっかけになったのが、認知行動療法でした。
カウンセリングで取り組んだことの一つが、不安階層表の作成です。
これは、自分がどのような状況で、どの程度の不安を感じるのかを整理するものです。
私の場合、各駅停車の短い区間から、快速電車、特急、新幹線、飛行機へと、不安を感じる状況を段階的に整理しました。
そして、最も不安の少ない課題から、少しずつ取り組むことになりました。
正直なところ、最初は「こんな小さなことを繰り返して、本当に変わるのだろうか」と思っていました。
しかし、いきなり大きな目標に挑戦するのではなく、自分にとって取り組める段階を考えることは、私にとって意味のある方法でした。
不安を完全になくしてから行動するのではなく、不安がある状態で何ができるのかを探していく。これが、私の取り組みの出発点になりました。
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各駅停車から新幹線へ、少しずつ挑戦した
私の乗車トレーニングは、各駅停車の短い区間から始まりました。
乗車中には、カウンセリングで学んだ呼吸法や五感法、筋弛緩法などを試しました。ツボ押しも、私が取り入れた対処法の一つです。
もちろん、毎回うまくいったわけではありません。
ホームまで行ったのに乗れなかった日もあります。乗車してから途中下車した日もあります。
それでも、少しずつ挑戦を続けました。
各駅停車の短い区間から始め、乗車時間を延ばし、快速電車や特急電車へと挑戦の範囲を広げていきました。やがて新幹線にも乗れるようになりました。
私にとって大きかったのは、以前は無理だと思っていたことが、少しずつ現実的な目標に変わっていったことです。
最初から自信があったわけではありません。挑戦する前には不安がありましたし、うまくいかなかった経験もありました。
それでも、一度の失敗で終わりにせず、また取り組んでみる。その繰り返しが、私の行動範囲を広げることにつながりました。
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飛行機に乗れるようになり、沖縄出張も経験した
電車や新幹線に挑戦するなかで、私の行動範囲は少しずつ広がりました。
かつては絶対に無理だと思っていた飛行機にも、再び乗れるようになりました。そして、仕事で沖縄へ出張するという目標も達成できました。
認知行動療法を始めた頃の私にとって、飛行機は不安階層表の最上位にある課題でした。
飛行機は、離陸した後に自分の意思ですぐに降りることができません。その状況を考えるだけで、不安が強くなっていました。
だからこそ、実際に飛行機に乗り、沖縄出張を経験できたことは、大きな出来事でした。
以前なら、できるはずがないと思っていたことが、長い時間をかけて挑戦できる目標になったのです。
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一度改善しても、再び電車が怖くなった
ここまで読むと、私は順調に回復したように感じるかもしれません。
しかし、実際はそうではありませんでした。
新幹線に乗れるようになり、飛行機にも乗れるようになった後、私は再び飛行機を避けるようになりました。そして、電車に対しても不安を感じるようになりました。
一度できるようになったことが、再び難しくなったのです。
当時は、これまでの努力が無駄になってしまったように感じました。
「せっかく乗れるようになったのに、どうしてまた怖くなってしまうのだろう」
そう考えると、落ち込むこともありました。
しかし、再び挑戦するなかで、以前の経験がすべて消えてしまったわけではないことに気づきました。
不安階層表を作ったこと。小さな課題から取り組んだこと。不安があっても行動できた経験。うまくいかなかったときに、もう一度やり直した経験。
そうした記憶や学びは、再び取り組むときにも役立ちました。
一度改善したら、二度と不安を感じなくなる。そんな単純な経過ではありませんでした。
それでも、後退したからといって、それまでの経験がすべて失われるわけではない。これは、私が自分の経験から学んだことです。
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20年以上向き合ってきて、今思うこと
私がパニック障害と向き合ってきた経験から、特に伝えたいことが三つあります。
① うまくいかなかった自分を責めすぎない
ホームまで行っても乗れなかった日や、途中下車した日は、私にもありました。
そのたびに自分を責めていたら、次の挑戦に向かうことも難しくなっていたと思います。
できなかったことだけを見るのではなく、そこまで行動できたことにも目を向ける。私自身、そう考えることが必要でした。
② 不安があることと、何もできないことは同じではない
私は長い間、不安がなくなってから電車に乗ろうと考えていました。
しかし、自分の経験を振り返ると、不安が完全になくなるのを待つだけでは、なかなか前に進めないこともありました。
もちろん、無理をして一人で挑戦する必要はありません。治療やカウンセリングを受けながら、自分に合った方法や段階を考えることが大切だと思います。
③ 一度の失敗で、すべてが決まるわけではない
私の経験では、挑戦がうまくいくこともあれば、後退することもありました。
一度乗れたからといって、いつでも平気になるわけではありませんでしたし、一度乗れなかったからといって、今後もずっと乗れないと決まったわけでもありません。
回復の経過は人それぞれです。私と同じように進むとは限りません。
それでも、うまくいかなかった経験を振り返り、必要に応じて支援を受けながら、次の一歩を考えていくことはできると感じています。
今、電車に乗れず苦しんでいる方へ
駅間5分の区間が怖かった時期も、ホームまで行って引き返した日も、私にはありました。
新幹線や飛行機に乗ることなど、考えられなかった時期もありました。
だからこそ、今、電車に乗れずに苦しんでいる方に伝えたいことがあります。
今できないことが、これから先もずっとできないと決まったわけではありません。
私自身、長い時間をかけて、できることが増えた時期を経験しました。一方で、再び難しくなった時期も経験しました。
この記事で紹介したのは、あくまで私自身の経過です。すべての人に同じ方法が合うわけではありませんし、必ず同じ結果になると約束することもできません。
それでも、今の状態だけで将来のすべてを決めつけなくてもよいのではないかと思います。
一人で抱え込まず、必要に応じて医療機関や専門家に相談しながら、自分に合った向き合い方を探していくことも大切です。
私も、これまでの経験を振り返りながら、パニック障害との付き合い方を考え続けています。
この記事が、同じような不安を抱えている方にとって、自分の経験や気持ちを見つめ直すきっかけになればうれしく思います。
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