体験記

【認知行動療法】“乗れない”を小分けに|不安階層表を作って最初の一歩を踏み出した体験

2026年5月5日

パニック障害と長く付き合ってきた私には、ずっと避けていたものがありました。

それが、電車や新幹線、飛行機などの乗り物です。

日常生活を送ることはできていても、「乗り物に乗る」という問題だけは残っていました。

仕事を続けていれば、出張などで遠くへ移動しなければならない場面もあります。

このまま乗り物を避け続けていたら、いつか仕事にも影響するかもしれない。

そこで私は主治医に、

「乗り物に乗れるようになるための治療をしたい」

と相談しました。

紹介されたのが、認知行動療法でした。

この記事では、私が認知行動療法を始めることになった経緯と、最初に作った「不安階層表」、そして初めての電車トレーニングまでを紹介します。

「乗り物に乗れない」という問題だけが残っていた

それまでの治療によって、日常生活はある程度安定していました。

発作の頻度も以前より少なくなっていました。

しかし、それでも「乗り物に乗る」という問題は残っていました。

電車に乗る。

新幹線に乗る。

飛行機に乗る。

私にとっては、どれも簡単なことではありませんでした。

特に怖かったのは、

「途中で苦しくなったらどうしよう」

「降りたくなっても降りられなかったらどうしよう」

ということです。

実際に何かが起きているわけではなくても、乗ることを考えるだけで不安になっていました。

仕事を続けるなら、避け続けることはできない

当時の私は仕事を続けていました。

仕事をしていれば、出張などで遠くへ行かなければならないことがあります。

そして、立場が上がるほど、自分だけが移動を避けることも難しくなっていきます。

このまま乗り物を避け続けていたら、

「乗り物に乗ることを克服するか」

「仕事や行動範囲を制限するか」

という問題にいずれ直面する。

そんなことを考えるようになりました。

そこで私は、自分から主治医に相談しました。

「乗り物に乗れるようになるための治療をしたい」

これが、私の認知行動療法の始まりでした。

認知行動療法に取り組むことになった

紹介されたのが、認知行動療法でした。

私の場合、カウンセリングを受けながら、これまで避けていた乗り物に少しずつ挑戦していくことになりました。

最初に取り組んだのが、

「不安階層表」

を作ることでした。

これは、自分が不安を感じる状況を並べて、その不安の強さを自分なりに数字で評価していくものです。

私の場合は、

  • 0=ほとんど問題なくできる

  • 50=頑張ればできそう

  • 100=今の自分には無理

というように、0から100までの数字で考えました。

私の不安は「0か100」だった

ところが、実際に表を作ってみると、意外なことが分かりました。

私の場合、

電車:100

新幹線:100

飛行機:100

だったのです。

つまり、どれも「絶対に無理」という評価でした。

これでは、段階的に練習することができません。

「電車に乗る」というだけで100なら、1駅だけ乗ることも、1時間乗ることも、同じ100になってしまいます。

でも、実際にはその二つが同じ難易度とは限りません。

そこで心理士の先生から、

「条件をつけて、難易度を分けてみましょう」

とアドバイスをもらいました。

「乗り物に乗る」を小さく分解してみる

例えば、電車に乗るという行動でも、

  • 妻と一緒に乗る

  • 1駅だけ乗る

  • 3駅乗る

  • 各駅停車に乗る

  • 快速電車に乗る

といった条件をつけることができます。

新幹線についても、

「いきなり新幹線に乗る」

ではなく、

「まず普通電車」

↓

「次に快速電車」

↓

「その先に新幹線」

というように考えられます。

すると、それまで「100」だったものが、少しずつ分解されていきました。

最終的に、私が作った不安階層表は、おおむね次のようになりました。

挑戦すること私が感じた不安
各駅停車・1駅・妻と一緒20
各駅停車・1駅30
各駅停車・3駅50
快速電車70
新幹線90
飛行機100

もちろん、これは私自身がその当時感じていた不安を数字にしたものです。

人によって不安を感じる場面も、数字のつけ方も違います。

私の場合は、このように条件を細かく設定することで、初めて「どこから始めればいいのか」が見えてきました。

不安階層表は「トレーニングの地図」だった

不安階層表を作る前は、

「電車に乗れない」

としか考えていませんでした。

しかし、表を作ってみると、

「電車の中でも、1駅なら挑戦できるかもしれない」

という考え方ができるようになりました。

これは私にとって大きな変化でした。

100だったものを、20、30、50、70……と小さく分ける。

そうすると、

「全部できなければ意味がない」

という考え方から、

「まず一番小さなところから始めればいい」

という考え方に変わります。

私にとって不安階層表は、単なる一覧表ではなく、次に何をすればいいのかを決めるための地図になりました。

カウンセリングの帰りに、最初のトレーニングを始めた

そして、その日のカウンセリングが終わった後。

私は、そのまま最初のトレーニングをしてみることにしました。

「思い立ったが吉日」という気持ちもありました。

そのときは、

「意外といけるんじゃないか?」

という根拠のない自信までありました。

そこで、不安階層表の中で一番低い難易度に設定した電車に向かいました。

駅に着くと、意外なほど落ち着いていた

駅に着きました。

電車を待ちます。

ホームに立っていても、思っていたほど不安はありません。

「設定が少し甘すぎたのかな」

と思ったくらいです。

ところが、

「まもなく電車がまいります」

というアナウンスが聞こえたとき、少しだけドキッとしました。

それでも、パニックになるほどではありません。

電車が到着しました。

ドアが開きます。

そして私は、そのまま乗りました。

「何も起きなかった」という最初の成功

車内に入ると、心拍数が少し上がっていることは感じました。

でも、パニックにはなりませんでした。

立ったまま車内を見回します。

そして、

何も起きませんでした。

そのまま目的の区間を乗り終えました。

正直なところ、少し拍子抜けしました。

「これで終わり?」

そんな感じでした。

もっと大変なことになると思っていたのに、実際には何も起きなかったからです。

最初の成功は「大きな成功」でなくてもいい

後になって振り返ると、この日の経験はとても大切なものだったと思います。

もちろん、最初から強い不安が出たわけではありません。

だから、

「不安を感じても乗り切った」

という意味ではありませんでした。

それでも私にとって、

「電車に乗っても何も起きなかった」

という事実が残りました。

これまで「乗れない」と思っていたものに、実際に乗ることができた。

それだけでも、私にとっては大きな一歩でした。

帰り道には、

「もしかしたら、乗れるのかもしれない」

と初めて思いました。

根拠は、たった一度の成功です。

でも、その一度の経験が次の挑戦につながっていきました。

「乗れない」を小分けにするという考え方

この最初のトレーニングを経験して、私が強く感じたのは、

「乗れない」という問題も、小さく分ければいい

ということでした。

私にとって、

「飛行機に乗る」

という目標は、当時は100の難題でした。

でも、

「妻と一緒に電車に1駅乗る」

なら、20と評価できました。

同じ「乗り物に乗る」という行動でも、条件を変えれば難易度は変わります。

だからこそ、

「最終目標が大きすぎて何もできない」

という状態から、

「まず今日は1駅」

という行動に変えることができました。

認知行動療法は「一気に克服する」ことではなかった

認知行動療法を始める前の私は、

「電車に乗れるようになる」

「新幹線に乗れるようになる」

「飛行機に乗れるようになる」

という結果ばかり考えていました。

しかし、実際に始めてみると、そこまで一気に進む必要はありませんでした。

まずは自分にとって取り組める小さな課題を設定する。

そして、それを経験したら、次の段階を考える。

私の場合は、そうやって一つずつ進んでいくことになりました。

もちろん、その後のトレーニングでは、うまくいった日だけではありません。

途中で乗車できなかったこともありました。

一度できるようになったことが、後になって難しく感じられたこともあります。

それでも、最初に作った不安階層表と、そこで経験した小さな成功は、その後のトレーニングの土台になりました。

まとめ|最初から「大きな壁」に挑む必要はなかった

私が認知行動療法を始めたとき、電車・新幹線・飛行機は、すべて「100」の問題でした。

しかし、

「妻と一緒に1駅」

「1駅」

「3駅」

「快速電車」

というように条件をつけて小分けにすることで、最初の一歩を決めることができました。

そして実際に1駅乗ってみると、何も起きませんでした。

この経験から私が学んだのは、

大きな問題でも、そのまま解決しようとしなくていい

ということです。

「電車に乗れない」のではなく、

「まず1駅ならどうか」

と考えてみる。

「新幹線に乗れない」のではなく、

「その前に、どんな小さな段階なら挑戦できるか」

を考える。

私にとって不安階層表は、そのための地図になりました。

そして、この小さな一歩が、その後の快速電車、新幹線、飛行機への挑戦につながっていきます。

ただし、これはあくまで私自身の治療経験です。

不安の感じ方や治療の進み方は人によって異なります。私の場合も、この後ずっと順調に進んだわけではありません。

それでも、あの日の「1駅」は、長いトレーニングの最初の一歩でした。

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