パニック障害の認知行動療法で、私は電車に乗る練習を少しずつ続けていました。
各駅停車に乗れるようになり、その次は快速電車。
そして、次に設定した目標が新幹線でした。
時間だけを考えれば、すでに快速電車である程度長い駅間を経験しています。
それでも、私にとって新幹線は、それまでの電車とはまったく違う存在でした。
「新幹線」という言葉そのものに、強い恐怖を感じていたのです。
この記事では、私が認知行動療法の一環として新幹線に挑戦したときの体験を紹介します。
各駅停車、快速電車の次は「新幹線」
私の認知行動療法では、最初から難しいことに挑戦するのではなく、できることから少しずつ段階を上げていきました。
私の場合は、
各駅停車
↓
快速電車
↓
新幹線
という順番です。
各駅停車には、少しずつ乗れるようになっていました。
その次の快速電車にも挑戦し、なんとか乗ることができました。
そこで、次の課題として新幹線を考えるようになりました。
時間だけを比較すれば、
「新幹線だけが特別に長いわけではない」
と分かっています。
それなのに、
「新幹線」という名前を聞いただけで怖い。
私にとって、新幹線は単なる乗り物ではありませんでした。
私にとって「新幹線」は恐怖の象徴だった
新幹線に乗ることを考えると、
「途中で降りられない」
「もし発作が起きたらどうする」
という不安が出てきました。
これまでの失敗や、電車に乗れなくなっていった記憶。
そうした経験が、私の中では「新幹線」という言葉に集約されているような感覚がありました。
実際に乗った経験があるかどうかだけではなく、
「新幹線=逃げられない乗り物」
というイメージが出来上がっていたのだと思います。
だからこそ、今回の挑戦は単なる電車の練習ではありませんでした。
私にとっては、これまで怖いと思い続けてきたものに向き合う挑戦でした。
新幹線「こだま」に挑戦
そこで最初の目標にしたのが、新幹線の「こだま」でした。
新幹線の中でも、私が挑戦しやすいと考えたからです。
不安階層表に沿って、一つずつ段階を上げてきたので、ここでもいきなり難しい条件を選ぶのではなく、自分にとって比較的取り組みやすいところから始めました。
とはいえ、当日の朝から緊張していました。
「本当に大丈夫だろうか」
「途中でダメになったらどうしよう」
そんな考えが頭の中を行き来します。
この頃の私には、ある程度分かってきたことがありました。
それは、
実際に乗っている時間より、乗る前の時間の方がつらいことがある
ということです。
今回も、まさにそうでした。
新幹線に乗っても、不安はすぐには消えなかった
新幹線に乗り込み、席に座りました。
これで目標を達成したわけですが、不安がすぐに消えたわけではありません。
車内は広く、普通の電車と比べても決して窮屈ではありません。
それでも私は、どこか閉塞感を感じていました。
「本当にこのまま乗っていて大丈夫なのか」
そんな感覚です。
発車前にはトイレにも行きました。
ところが、トイレは車内の座席よりも狭い空間です。
そこで再び、
「この状態で本当に大丈夫なのか」
という不安が出てきました。
席に戻っても、まだ緊張は残っていました。
そこで呼吸法を使った
席に座り、これまで練習してきた呼吸法を始めました。
ゆっくり吸って、ゆっくり吐く。
最初は、それだけで劇的に気持ちが変わったわけではありません。
それでも1分ほど続けていると、少しずつ感覚が変わってきました。
さっきまで頭の中を占めていた不安が、少しだけ後ろに下がったように感じたのです。
そして、
「いけるかもしれない」
と思えるようになりました。
東京駅を出発する頃には、乗車前よりかなり落ち着いていました。
私の場合、呼吸法をすると不安に意識が集中しすぎる状態から少し距離を置きやすくなりました。
もちろん、これは私自身の経験です。
呼吸法がすべての人に同じように作用するという意味ではありません。
発車してみると、意外なほど何も起きなかった
そして、新幹線が発車しました。
私はかなり警戒していました。
ところが、
何も起きませんでした。
強い不安が襲ってくることもなく、思っていたより安定していました。
むしろ、
「こんなものなのか」
と思ったほどです。
もちろん、乗る前の不安が大きかったからこそ、実際に何も起きなかったことに驚いたのだと思います。
この経験から私が感じたのは、
不安が予測している未来と、実際に起きることは必ずしも同じではない
ということでした。
これは、私にとって大きな経験でした。
往路が終わっても、復路ではまた不安になった
しかし、ここで「新幹線を克服した」と簡単には終わりませんでした。
復路では、また別の不安が出てきました。
新大阪から京都までの区間です。
往路で経験した東京から品川までの区間よりも、最初の区間が長くなります。
そのことを意識すると、
「最初から長い区間を乗るのか」
と不安になりました。
しかも、ホームで新幹線を待っている時間にも、不安がどんどん膨らんでいきました。
ここで私は改めて、
実際の乗車だけでなく、「これから乗る」という予期不安が大きな負担になっている
ことを感じました。
発車前に、もう一度呼吸法を使った
そこで、復路でも乗車してから呼吸法を始めました。
今度は少し長めに、3分ほど続けました。
すると、発車前には少しずつ気持ちが落ち着いてきました。
「これなら大丈夫だ」
そう思える状態で発車を迎えることができました。
そして、実際に発車してみると、往路と同じように安定していました。
乗る前にはあれだけ不安だったのに、乗ってしまえば普通に過ごせたのです。
「自分だけではない」と考えたら、少し気持ちが軽くなった
復路の車内で、私は周囲を見渡しました。
スーツ姿の人。
家族連れ。
旅行を楽しんでいる人。
ごく普通の車内の光景です。
そのとき、
「この中にも、自分と同じように何かに不安を感じている人がいるのかもしれない」
と思いました。
パニック障害になると、自分だけが取り残されたような感覚になることがあります。
「こんなことで怖がっているのは自分だけなのではないか」
と思ってしまうこともありました。
でも、車内を見渡していると、
「人にはそれぞれ、外からは見えない不安や悩みがあるのかもしれない」
と感じました。
そう考えると、少しだけ肩の力が抜けました。
今回の新幹線への挑戦で分かったこと
今回の経験から、私自身が感じたことはいくつかあります。
1.怖いのは「乗っている時間」だけではない
新幹線に乗っている時間よりも、
「これから新幹線に乗る」
と考えている時間の方がつらいことがありました。
私の場合、予期不安がかなり大きな負担になっていました。
2.不安がなくならなくても、行動できる
新幹線に乗る前、不安はありました。
不安がゼロになったから乗れたわけではありません。
不安を抱えたままでも、
「やってみよう」
と行動できました。
これは、快速電車への挑戦でも経験したことです。
3.「怖いもの」は、実際に経験すると印象が変わることがある
私にとって新幹線は、長い間「怖い乗り物」の象徴でした。
しかし、実際に乗ってみると、車内では普通に過ごすことができました。
もちろん、その後も不安になることはありました。
一度乗れたからといって、すべての不安がなくなったわけではありません。
それでも、
「新幹線に乗っても大丈夫だった」
という経験が一つ増えたことは、大きな意味がありました。
認知行動療法では「できた経験」が次につながる
私が認知行動療法を続ける中で大切だと感じたのは、
できた経験を積み重ねること
でした。
各駅停車に乗れた。
↓
快速電車に乗れた。
↓
新幹線にも乗れた。
一つひとつを見ると、小さな出来事に見えるかもしれません。
でも、当時の私にとっては、それぞれが大きな挑戦でした。
そして、
「前はできなかったことが、今回はできた」
という経験が、次の挑戦への土台になりました。
この後も私は、新幹線の中でさらに駅間時間の長い区間に挑戦していくことになります。
「不安がなくなってから挑戦する」のではなく
パニック障害になった当初の私は、
「不安がなくなったら行動しよう」
と考えていました。
でも、実際には、不安が完全になくなるのを待っていたら、なかなか次の一歩を踏み出せません。
今回の新幹線への挑戦でも、不安はありました。
それでも、
不安がある状態で新幹線に乗り、実際に何も起きなかった
という経験をすることができました。
私にとっては、この経験そのものが大きな意味を持っていました。
もちろん、これは私自身が治療の中で経験したことであり、同じ方法がすべての人に適しているという意味ではありません。
もし同じような悩みを抱えている場合は、医療機関などで相談しながら、自分に合った方法を探すことが大切だと思います。
まとめ|「新幹線」を乗り越えた日
私にとって新幹線は、単なる乗り物ではありませんでした。
「途中で逃げられない」
「発作が起きたらどうしよう」
そんな過去の記憶や不安が、「新幹線」という言葉に集約されていました。
だからこそ、実際に新幹線に乗れたことは、単なる移動以上の意味を持っていました。
今回の経験で私が学んだのは、
不安のピークを予測するだけでなく、実際の経験を積むこと
乗車後だけでなく、乗車前の予期不安にも目を向けること
不安がゼロにならなくても行動できること
できた経験を次の挑戦につなげること
「怖いもの」というイメージと、実際の経験は違うことがあること
です。
新幹線に乗れたからといって、その日から何でも平気になったわけではありません。
それでも私にとっては、
「あれほど怖かった新幹線に、自分は乗ることができた」
という事実が残りました。
この経験が、その後のさらに長い区間への挑戦、そして将来的な飛行機への挑戦へとつながっていきます。
関連記事
-

【認知行動療法①】快速電車に挑戦|「不安があっても乗る」を実践した私の体験
パニック障害の治療で認知行動療法に取り組んだ私が、各駅停車の次に快速電車へ挑戦した体験を紹介。不安があっても行動すること、小さな段階から挑戦することの大切さを解説します。
続きを見る
-

【認知行動療法③】快速急行に挑戦|駅間時間の長い「止まらない区間」を乗り越えた私の体験
パニック障害の認知行動療法で、駅間時間の長い快速急行に挑戦した私の体験を紹介。途中で降りられない不安に対して、メモや呼吸法を使いながら乗り切った過程と、挑戦から学んだことを解説します。
続きを見る
-

【認知行動療法④】快速特急に挑戦|不安が揺らいだ日でも「乗る」を選んだ私の体験
パニック障害の認知行動療法で、各駅停車から特急へと電車のトレーニングを進めた実体験。少しずつ乗車時間や距離を延ばしながら、不安に慣れていく過程と成功体験の積み重ねを紹介します。
続きを見る



