昔は、銀行は銀行、携帯電話は携帯電話、証券会社は証券会社として、それぞれを個別に比較して選ぶのが普通でした。
銀行なら金利や手数料。
携帯電話なら通信品質や料金。
クレジットカードならポイント還元率。
証券会社なら手数料や取扱商品。
それぞれの分野で最も条件の良いサービスを選べば、それで十分でした。
ところが数年前から、この構図が大きく変わってきています。
楽天、ドコモ、PayPay、au、三井住友カード・SBI証券、イオンなどが、通信、決済、カード、銀行、証券、EC、小売りといった異なる分野のサービスを組み合わせ、「経済圏」そのものを形成して競争するようになったからです。
しかも2025年から2026年にかけては、その経済圏同士の「合従連衡」が一気に進みました。
象徴的なのが、かつて「SBI経済圏」の重要な存在だった住信SBIネット銀行が、2026年8月3日に「ドコモSMTBネット銀行」へ商号変更したことです。現在は「ドコモの銀行」というブランドでサービスを展開しています。
これは単なる銀行名の変更ではありません。
「どの企業が、どの経済圏の中核を担うのか」という勢力図そのものが変化しているのです。
この記事では、最近起きている経済圏の合従連衡を整理しながら、最後に「私たちは経済圏をどう選べばいいのか」を、資産運用の視点から考えてみます。
これまでの経済は「分野内では競争、分野外では連携」だった
まず、従来の企業競争を考えてみましょう。
銀行なら、
銀行A vs 銀行B vs 銀行C
という競争でした。
携帯電話なら、
ドコモ vs au vs ソフトバンク
です。
証券会社なら、
SBI証券 vs 楽天証券 vs マネックス証券
といった具合です。
つまり、基本的には同じ分野の企業同士が競争する構造でした。
一方、銀行と携帯電話会社は異なる業種です。
銀行は銀行として金融サービスを提供し、携帯電話会社は通信サービスを提供する。
もちろん企業間の提携はありましたが、異なる業種のサービスを一つの巨大な顧客基盤に組み込んで競争するという発想は、現在ほど強くありませんでした。
「企業同士」から「経済圏同士」の競争へ
ところが現在は違います。
例えば楽天なら、
- 楽天市場
- 楽天カード
- 楽天銀行
- 楽天証券
- 楽天モバイル
- 楽天ペイ
- 楽天ポイント
などがつながっています。
一つのサービスを利用すると、別のサービスにもメリットが生まれる。
その結果、
楽天という企業単体ではなく、「楽天経済圏」そのもの
が顧客を囲い込む力を持つようになりました。
同じことが、PayPay、ドコモ、au、三井住友カード・SBI証券、イオンなどでも起きています。
企業にとって重要なのは、
自社の商品を一つ売ること
だけではありません。
一人の顧客に、経済圏の中でできるだけ多くのサービスを使ってもらうこと
が重要になっています。
そして2025~2026年、経済圏の「合従連衡」が始まった
ここからが今回の記事の本題です。
現在の経済圏は、単純に各社が自前のサービスを増やしているだけではありません。
企業同士が資本提携し、買収し、サービスを統合し、別の経済圏との連携を強めています。
まさに戦国時代の「合従連衡」のような状況です。
住信SBIネット銀行が「ドコモの銀行」になった
今回の経済圏再編を象徴する出来事が、住信SBIネット銀行です。
以前の住信SBIネット銀行といえば、
SBI証券 + 住信SBIネット銀行
という組み合わせを思い浮かべる人が多かったでしょう。
ところが2025年、ドコモが住信SBIネット銀行との資本業務提携を発表。
その後、2026年8月3日に商号が「ドコモSMTBネット銀行」へ変更されました。個人向け銀行サービスのブランドも「ドコモの銀行」に統合されています。
もちろん、旧住信SBIネット銀行のサービスがすべて消えたわけではありません。
現在もSBI証券との連携など、従来からの機能が残っています。
しかし、経済圏という観点から見ると意味は大きい。
かつて、
SBI証券 + 住信SBIネット銀行
という組み合わせを「SBI経済圏」と考えていた人も多かったでしょう。
それが今では、
ドコモ + ドコモSMTBネット銀行 + マネックス証券
という新しい金融連携へ向かっています。
まさに経済圏の勢力図が変わった象徴です。
ドコモは「携帯会社」から「金融経済圏」へ
ドコモの変化は、銀行だけではありません。
2023年にはマネックス証券との資本業務提携を開始。
さらに2026年7月1日には、金融事業を統括するNTTドコモ・フィナンシャルグループが事業を開始しました。
ドコモの銀行とマネックス証券を連携させ、dカード積立などと組み合わせた特典も展開されています。
つまり、今のドコモを、
「携帯電話会社」
と考えるのは、もう実態に合わなくなっています。
通信を入口に、決済・銀行・証券まで取り込む金融経済圏
へと変化しているのです。
楽天も金融事業を再編
一方、楽天も黙っているわけではありません。
楽天は2026年、楽天銀行、楽天カード、楽天証券ホールディングスなどのフィンテック事業を再編する方針を示しました。楽天銀行を中心に金融事業を集約する方向です。
これは楽天経済圏にとって非常に大きな意味を持ちます。
楽天はもともと広い経済圏を持っていました。
それをさらに金融面から強化しようとしているわけです。
PayPayはLINEとの連携を強化
PayPay経済圏も大きく変化しています。
PayPayといえば、以前は、
「スマホ決済サービス」
というイメージが強かったでしょう。
しかし現在は、
PayPay + PayPayカード + PayPay銀行 + PayPay証券
という金融サービスまで広がっています。
そして2026年夏には、LINEとPayPayのアカウント連携が開始される予定です。
LINEは国内月間利用者数1億人、PayPayは登録ユーザー7,400万人を抱えており、両サービスをつなぐことで、送金や割り勘などの利便性を高めようとしています。
これは非常に象徴的です。
SNS × 決済 × EC × 金融
という、まさに経済圏型のサービス統合です。
PayPayアセットマネジメントは事業終了
一方で、PayPay経済圏の金融サービスがすべて拡大しているわけではありません。
象徴的なのが、PayPayアセットマネジメントの事業終了です。
PayPayアセットマネジメントは、2025年9月末を目途に事業を終了することを発表しました。背景には、運用資産の拡大が計画通りに進まず、業績低迷が続いていたことがあります。
同社が運用していた投資信託の一部は、2025年8月にアセットマネジメントOneへ移管され、運用が継続されています。つまり、投資信託そのものがすべて消滅したわけではなく、運用会社が変わったということです。
この出来事は、経済圏を考えるうえで重要な示唆があります。
経済圏は、企業がサービスを追加し続けるだけのものではありません。
採算性や戦略によって、サービスを終了したり、他社へ移管したりすることもあります。
つまり経済圏の「構成要素」は固定されたものではないのです。
auはKDDI・MUFG・ローソンを巻き込む
au経済圏も非常に興味深い存在です。
中心にあるのは、
KDDI + au PAY + Ponta + auじぶん銀行 + 三菱UFJ eスマート証券 + ローソン
という組み合わせです。
特にau経済圏では、KDDIとMUFGの金融面での連携に加え、ローソンとの関係も重要になっています。
つまり、
通信 + 決済 + ポイント + 銀行 + 証券 + コンビニ
という生活全体を巻き込む経済圏になっています。
経済圏はもはや「ポイントを貯める場所」ではなく、
生活インフラそのもの
になりつつあるのです。
三井住友カード+SBI証券も強力な金融連合へ
一方、かつて「SBI経済圏」と呼ばれることが多かった勢力も変化しています。
現在の資産形成という観点では、
三井住友カード + Olive + Vポイント + SBI証券
という組み合わせが非常に重要になっています。
三井住友カードではSBI証券のクレカ積立によりVポイントが貯まり、Olive限定の上乗せプランも2026年4月から始まりました。
つまりSBI証券は、単独で存在しているわけではありません。
SMBCのカード・銀行サービスとSBI証券を組み合わせた金融経済圏
として見るほうが、現在の姿に近いでしょう。
ここでも、
SBI証券を選ぶ
という個別サービスの選択から、
三井住友カード・Olive・Vポイント・SBI証券というパッケージを選ぶ
という考え方へ変わっています。
経済圏の勢力図はこう変わってきた
ここまでを簡単に整理してみましょう。
| 経済圏 | 主な構成要素 | 最近の大きな変化 |
|---|---|---|
| 楽天 | 楽天市場・楽天カード・楽天銀行・楽天証券・楽天モバイル | 金融事業を再編し、金融サービスの一体化を強化 |
| ドコモ | ドコモ・dカード・dポイント・ドコモSMTBネット銀行・マネックス証券 | 金融持株会社を設立し、銀行・証券を本格統合 |
| PayPay | PayPay・PayPayカード・PayPay銀行・PayPay証券・LINE | LINEとのアカウント連携を開始 |
| au | au・au PAY・Ponta・auじぶん銀行・三菱UFJ eスマート証券・ローソン | KDDI・MUFG・ローソンの連携を強化 |
| SMBC・SBI | 三井住友銀行・三井住友カード・Olive・Vポイント・SBI証券 | クレカ積立・Oliveなど金融連携を強化 |
| イオン | イオン・イオンカード・WAON POINT・イオン銀行 | 小売りを中心に金融・決済との連携を継続 |
ここで注目したいのは、経済圏の境界線が以前ほど明確ではなくなっていることです。
企業同士が提携するため、
「ドコモSMTBネット銀行はドコモ経済圏だけ」
という単純な構図ではありません。(SMBC・SBI経済圏でも利用可能)
経済圏同士が競争しながら、一部では互いに連携する。
まさに「合従連衡」です。
なぜ企業は経済圏を作るのか?
では、なぜこれほどまでに企業は経済圏を作るのでしょうか。
大きな理由の一つは、顧客との接点を増やすためです。
携帯電話だけであれば、顧客との接点は通信料金の支払いなどに限られます。
しかし、
携帯 → 決済 → カード → 銀行 → 証券 → EC
とサービスを広げていくことで、日常のあらゆる場面で顧客と接点を持てるようになります。
さらに、複数サービスを利用するほど乗り換えが難しくなり、顧客の囲い込みにもつながります。これが企業にとっての経済圏の大きな価値です。
利用者側にもメリットがある
経済圏は企業だけが得をする仕組みではありません。利用者にも明確なメリットがあります。
例えば、
- ポイントを一元管理できる
- サービス間の連携がスムーズ
- カード利用でポイントが貯まる
- ポイントを投資に回せる
- 銀行と証券の資金移動が簡単
- 通信・決済・金融をまとめて管理できる
特に資産形成では、
カード → ポイント → 証券 → 投資
という流れを作れる点が大きな特徴です。
経済圏は「どう選ぶべきか」
ここが最も重要なポイントです。
「一番ポイントが貯まる経済圏を選ぶ」という考え方は分かりやすいですが、それだけでは不十分です。
なぜなら経済圏は単なるポイ活の仕組みではなく、生活と資産形成をまとめるインフラだからです。
そのため、
自分のライフプランに合っているか
を基準に考える必要があります。
経済圏はETFに似ている
経済圏の考え方はETFに非常によく似ています。
例えばS&P500 ETFには、
- Apple
- Microsoft
- NVIDIA
- Amazon
- Meta
など多くの企業が含まれています。
投資家は個別銘柄を組み合わせるのではなく、
「S&P500というパッケージを選ぶ」
という意思決定をします。
経済圏も同じです。
- 楽天経済圏:楽天カード・楽天銀行・楽天証券・楽天市場・楽天モバイル
- SMBC・SBI経済圏:三井住友銀行・三井住友カード・Olive・SBI証券
- ドコモ経済圏:dカード・dポイント・ドコモSMTBネット銀行・マネックス証券
このように、サービスがセットで設計されています。
つまり経済圏とは、
「個別サービスを選ぶ」のではなく「パッケージを選ぶ」仕組み
だと考えられます。
経済圏の中身は変化する
ETFと同じく、経済圏の中身も固定ではありません。
例えば、
住信SBIネット銀行 → ドコモSMTBネット銀行
のように、資本関係や提携関係の変化によって構成は変わっていきます。
これは利用者がコントロールできるものではなく、企業側の戦略によって決まります。
そのため重要なのは、
- 今何が含まれているか
- これからどう変わりそうか
という視点です。
自分に合った経済圏を選ぶ
経済圏はポイント還元率だけで選ぶべきではありません。以下の視点が重要です。
- 生活との相性:どこで買い物をするか、どの通信会社を使うか
- 資産形成との相性:NISAやiDeCoをどの証券会社で運用するか
- 銀行機能の使いやすさ:給与受取・引落し・住宅ローンなどとの相性
- 長期的に使えるか:短期的なポイントより、継続利用のしやすさ
選び方の順番は次の通りです。
① ライフプランを考える
② 必要なサービスを整理する
③ それを満たす経済圏を選ぶ
④ 最後にポイントや特典を比較する
順番を逆にしてはいけません。ポイント目的で選ぶと、生活とのミスマッチが起きやすくなります。
まとめ
経済圏はETFのようなものです。
ETFが「銘柄のパッケージ」であるように、経済圏も「生活サービスのパッケージ」です。
そして私たちができるのは、個別サービスを細かく最適化することではなく、
どの経済圏というパッケージに乗るかを選ぶこと
です。
さらに経済圏は、ETFと同じように中身が変化していきます。
だからこそ重要なのは、
「どの経済圏が一番お得か」ではなく「どの経済圏が自分のライフプランに合うか」
という視点です。
