これまでの認知行動療法では、各駅停車、快速電車、快速急行、特急、新幹線こだまと、少しずつ乗車できる範囲を広げてきました。
しかし、まだ私の中に大きな壁が残っていました。
それが、
「30分以上、途中で降りられない電車に乗ること」
でした。
前回の新幹線ひかりへの挑戦では、往路は最後まで乗ることができました。
一方、復路では途中下車しています。
「30分前後の無停車区間になると、不安が強くなる」
という自分の課題が、かなりはっきり見えてきました。
そこで今回は、その壁を正面から越えるため、特急ロマンスカーで新宿から箱根まで乗車することにしました。
この区間には、私が苦手としていた30分を超える無停車区間があります。
今回の目標は明確でした。
「30分を超えても大丈夫だった」という経験を、自分の中に作ること。
「30分の壁」が私にとって大きかった理由
私が恐れていたのは、電車そのものではありませんでした。
これまで何度も電車に乗っています。
快速急行にも乗れました。
ロマンスカーにも乗れました。
新幹線ひかりにも乗れました。
それでも、
「30分以上、途中で降りられない」
という条件になると、不安が強くなります。
もし途中で具合が悪くなったらどうするのか。
降りたくなったらどうするのか。
次の駅まで長時間かかったらどうするのか。
そう考え始めると、まだ何も起きていない段階から不安が膨らんでいきました。
つまり、私にとっての「30分の壁」は、実際の乗車時間そのものというより、
「30分間、途中で逃げられないかもしれない」という予測
によって作られていた部分が大きかったのだと思います。
前日の夜から予期不安が始まった
トレーニングの前日、私はロマンスカーのチケットを購入しました。
その時点で、すでに予期不安が出てきました。
「明日は大丈夫だろうか」
「30分を超えたところで、また不安になったらどうしよう」
「今回は最後まで乗れるだろうか」
夜になり、準備を進めていくにつれて、不安は少しずつ強くなっていきました。
明日のことを考えるほど、まだ起きていないことまで心配になります。
しかし、しばらく考えたところで、私は一つのことに気づきました。
前日の夜にいくら考えても、明日の結果は変わらない。
「今は問題を考えなくていい」
そこで私は、
「前夜に悩んでも意味がない」
と考え直しました。
明日のことは、明日になってから考えればいい。
今はまだ乗車していない。
今できることだけをやればいい。
そう考えると、少しずつ不安が弱くなっていきました。
さらに私は、そのときの気持ちをメモに書き始めました。
「今、不安を感じている」
「まだ何も起きていない」
「明日のことを考えすぎている」
そんなふうに、自分の状態を言葉にしていきました。
すると、
「自分は今、未来に起こるかもしれないことを想像して不安になっている」
と、少し客観的に見ることができるようになりました。
これまでのトレーニングでも、メモを書くことは何度かありました。
私にとっては、頭の中だけで考え続けるより、文字にしたほうが自分の状態を整理しやすかったのです。
当日も、乗車前には不安が強くなった
そして当日。
完全に不安がなくなったわけではありませんでした。
新宿駅に到着すると、少し落ち着かない感覚がありました。
そして、ロマンスカーの車両が目に入った瞬間、
予期不安が一気に強くなりました。
「これから、あの電車に30分以上乗る」
そう意識したことで、頭の中にさまざまな考えが浮かびました。
ここで私は、
「また前回のように乗れなかったらどうしよう」
という気持ちにもなりました。
しかし、今回は一つの考え方を試してみることにしました。
「乗った後のことは考えない」
私は、
「乗った後のことは考えない。問題は先送りする」
と決めました。
これまでの私は、
「問題が起きる前に、問題を解決しておこう」
と考える傾向がありました。
仕事では、それが役に立つこともあります。
しかし、今回のような状況では、
「30分後に不安になったらどうする?」
「そのとき降りたくなったら?」
「途中で苦しくなったら?」
と先のことを考えるほど、不安が大きくなってしまいます。
そこで、
「その問題は、そのときになってから考えればいい」
と、あえて先送りすることにしました。
すると、不思議なことに、それまで強かった予期不安が一気に弱まりました。
私にとっては、大きな発見でした。
不安を「なくそう」としなかった
このとき、私は不安を完全になくそうとはしませんでした。
「不安にならないようにしなければ」
と考えると、かえって不安を意識してしまいます。
そこで、
「不安が出ても、そのとき考えればいい」
くらいに考えました。
すると、乗車前の緊張が少しずつ軽くなっていきました。
結果的に、ロマンスカーに乗ることができました。
乗車中は、メモを書くことにした
新宿を出発してからは、不安はほとんど感じませんでした。
そこで私は、いつものようにメモを書き始めました。
「今は大丈夫」
「さっきより落ち着いている」
「思ったより普通に乗れている」
そんなことを書いていきます。
メモを書くことで、
自分の状態を一歩引いて眺める
ような感覚がありました。
不安の中に完全に入り込むのではなく、
「今、自分はこういう状態なんだな」
と観察するような感じです。
これが私には合っていました。
町田を過ぎると、また「30分」を意識した
しばらくすると、町田に到着しました。
ここまでは順調です。
ところが、町田を出発した後、
「次は小田原まで約38分ある」
ということを意識しました。
すると、一瞬だけ不安が出てきました。
やはり、
「30分を超える」
という数字そのものが、自分にとって大きな意味を持っていたのだと思います。
しかし、ここで以前とは違う考え方ができました。
「ここまで、あっという間だった」
私は、
「ここまであっという間だった」
と思い返しました。
新宿を出発してから、すでにかなりの時間が経っています。
それでも、実際には大きな問題は起きていません。
そこで、
「ここまであっという間だったのだから、終点までも短く感じるはず」
と考えました。
もちろん、これは単なる気休めだったかもしれません。
それでも、自分で意識的に考え方を切り替えることで、不安を大きくしないようにしました。
そして、そのまま乗車を続けることができました。
「注意の分散」が実際に役立った
今回のトレーニングでは、カウンセリングで学んでいた「注意の分散」という考え方も役立ちました。
不安だけをずっと見つめ続けるのではなく、
メモを書く
周囲を見る
別のことを考える
自分の状態を言葉にする
など、意識を別の対象にも向けるようにしました。
私の場合、こうすることで、
「不安がある」
という事実だけに集中し続けずに済みました。
そして気がつけば、30分を超える時間が経過していました。
「30分を超えても、何も起きなかった」
最終的に、私はロマンスカーで30分を超える無停車区間を乗り越えることができました。
これは私にとって、大きな成功体験でした。
なぜなら、それまで何度も、
「30分以上、途中で降りられなかったらどうしよう」
と考えていたからです。
実際にその時間を経験してみると、
何も起きませんでした。
不安が出る瞬間はありました。
「本当に大丈夫だろうか」
と考えることもありました。
それでも、最終的にはそのまま乗っていられました。
私にとって重要だったのは、
「不安がなくなった」ことではなく、「不安が出ても、そのまま乗り続けることができた」こと
でした。
箱根に到着すると、かなり余裕があった
終点の箱根に到着したときには、かなり余裕がありました。
出発前にあれほど心配していたのが、少し不思議に感じるほどです。
「30分を超えたら大変なことになる」
と思っていた自分に対して、
「実際には、何も起きなかった」
という新しい経験を積むことができました。
これまでのトレーニングでも、実際に乗ってみると予想していたほど不安にならないことがありました。
今回も同じでした。
頭の中で予想していた怖さと、実際に経験したことには差がある。
そのことを改めて実感しました。
復路は、往路よりも落ち着いていた
そして帰りです。
往路で30分を超える無停車区間を経験したことで、気持ちはかなり違っていました。
「もう一度、同じことをする」
という感覚だったからです。
往路では、
「本当にできるだろうか」
という不確かさがありました。
しかし復路では、
「一度できた」
という事実があります。
その経験が、そのまま安心材料になりました。
結果として、復路も最後まで安定して乗車することができました。
「行けた」が次の安心感になる
今回、特に強く感じたのは、
成功した経験そのものが、次の挑戦を支えてくれる
ということです。
往路で、
「30分を超えても大丈夫だった」
という経験をしました。
すると、復路では、
「また同じことが起きても、前にも大丈夫だった」
と考えることができます。
これは、頭で理解するだけでは得られない感覚でした。
実際に経験したからこそ、
「大丈夫だった」
という記憶が次の行動を支えてくれました。
今回の30分の壁への挑戦で学んだこと
今回のトレーニングから、私はいくつかのことを学びました。
1.先のことを考えすぎない
前日の夜に、
「明日はどうなるだろう」
と考え続けても、不安が強くなるだけでした。
まだ起きていないことについて、必要以上に考えない。
問題が起きたら、そのとき考える。
私には、この考え方が役立ちました。
2.不安だけに注意を集中させない
不安をずっと観察していると、不安そのものが大きくなってしまうように感じました。
そこで、メモを書いたり、別のことを考えたりして、意識を分散させました。
私の場合は、それによって落ち着きを保ちやすくなりました。
3.自分の状態を客観視する
「不安だ」と感じたとき、
「自分は今、不安を感じている」
と少し距離を置いて考えてみました。
すると、
「不安=危険」
と直結させずに済みました。
4.考え方を意識的に切り替える
町田を過ぎて「38分」という数字を意識したとき、
「あと38分もある」
ではなく、
「ここまであっという間だった」
と考えました。
状況そのものは変わりません。
それでも、自分がどこに注意を向けるかは変えられます。
「30分の壁」は、実際には何だったのか
今回、30分を超える無停車区間を実際に経験してみて、一つ気づいたことがあります。
私が怖がっていた「30分」という時間は、実際にはそれほど特別なものではありませんでした。
30分が経過するまでの間にも、
「あと何分だろう」
と時計を見続けていたわけではありません。
メモを書いたり、周囲を見たり、別のことを考えたりしているうちに、時間は過ぎていきました。
つまり私が恐れていたのは、
「30分という時間」そのものより、「30分間何か起きたらどうしよう」と考え続けること
だったのかもしれません。
実際に経験してみたことで、その違いが分かりました。
これまでの挫折も無駄ではなかった
今回の成功は、突然できるようになったものではありません。
⑤では30分の特急に乗ることができず、乗車直前で回避しました。
⑥では新幹線ひかりに挑戦し、往路では成功したものの、復路では途中下車しました。
その経験があったからこそ、
「30分の無停車区間が自分にとっての課題だ」
と、かなり具体的に分かっていました。
だから今回、その課題を狙ってトレーニングすることができました。
そう考えると、以前の「失敗」も無駄ではなかったのだと思います。
失敗したからこそ、自分の課題がはっきりした。
そして、その課題にもう一度挑戦することができました。
認知行動療法は「不安をゼロにすること」ではなかった
今回の経験を通じて、私の認知行動療法に対する考え方は、さらに変わりました。
最初は、
「不安がなくなれば、電車に乗れる」
と思っていました。
しかし、実際には逆でした。
不安がある状態でも乗ってみる。
不安が出たら、呼吸法やメモを使う。
先のことを考えすぎない。
注意を別のところへ向ける。
そうしているうちに、
「不安があっても大丈夫だった」
という経験が積み重なっていきました。
今回も、乗車前には不安がありました。
町田を過ぎてからも、一瞬不安になりました。
それでも、最後まで乗ることができました。
だから私にとって、この日の成功は、
「不安がなくなったこと」ではなく、「不安があっても行動を続けられたこと」
に意味がありました。
30分の壁を越えた先に見えてきたもの
今回、ついに30分を超える無停車区間を乗り越えることができました。
それまで大きな壁だと思っていたものも、実際に経験してみれば、少しずつ小さく見えてきます。
もちろん、これでパニック障害の不安がすべてなくなったわけではありません。
次には、さらに長い区間があります。
そして、まだ飛行機という大きな課題も残っています。
それでも、
「30分は無理かもしれない」
と思っていた自分が、
「30分を超えても乗っていられた」
という経験を手に入れたことは、大きな意味がありました。
この経験を繰り返しながら、少しずつ自分の行動範囲を広げていきたい。
当時の私は、そんなふうに考えていました。
もちろん、これは私自身の体験です。
パニック障害の症状や治療経過、認知行動療法への取り組み方には個人差があります。同じ方法や考え方が、すべての人に当てはまるものではありません。
それでも、この日の経験から私が学んだのは、
「大きな壁だと思っているものも、実際に一度経験してみることで、その正体が見えてくる」
ということでした。
そして私にとって「30分の壁」は、
「30分間、不安を感じないこと」ではなく、「不安が出ても30分を超えて乗っていられること」
だったのだと思います。
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