最近、「インフレによって住宅ローンの変動金利が上昇し、返済負担が増えている」というニュースをよく目にします。
確かに、インフレが進めば、日本銀行が金融引き締めを行い、政策金利が上昇する可能性があります。
変動金利で住宅ローンを借りている人にとっては、気になる話です。
私自身も変動金利の住宅ローンを返済しています。
そのため、最初は私も、
「インフレが進んだら、住宅ローンの利息がどんどん増えて大変になるのではないか?」
と考えていました。
ところが、よく考えてみると、少し気になることがあります。
インフレによって円の価値が下がるなら、現在借りている住宅ローンの「返済額の価値」も下がるのではないでしょうか。
例えば、10年前に5,000万円を借りたとします。
10年前の5,000万円と、物価が上昇した35年後の5,000万円は、本当に同じ価値なのでしょうか。
今回は、自分自身の住宅ローンを題材に、インフレ・変動金利・借金の実質価値・不動産価値について考えてみました。
インフレになると、住宅ローンの利息は増える
まず、インフレが住宅ローンに与えるマイナス面から考えてみます。
物価が上昇すると、中央銀行はインフレを抑えるために政策金利を引き上げることがあります。
その結果、
インフレ
↓
政策金利の上昇
↓
市場金利の上昇
↓
住宅ローンの変動金利上昇
↓
利息負担の増加
という流れが考えられます。
したがって、変動金利の住宅ローンを借りている人にとって、インフレは確かに注意すべき要因です。
実際、住宅ローンを検討するときには、
「今の金利が低いから大丈夫」
と考えるだけでは不十分です。
将来、金利がどこまで上昇する可能性があるのかを考える必要があります。
でも、「借金そのもの」の価値も変わる
ここで、もう一つの視点があります。
それが、インフレによる借金の実質価値の低下です。
例えば、10年前に5,000万円の住宅ローンを契約したとします。
10年前の5,000万円と、物価が大きく上昇した後の5,000万円では、購入できるモノやサービスの量が違います。
物価が上昇するということは、裏を返せば、
同じ1万円で購入できるモノが少なくなる
ということです。
つまり、円の購買力が低下しています。
住宅ローンの残高が額面上5,000万円だったとしても、その5,000万円の実質的な価値は時間とともに小さくなっていくことになります。
金利のある世界では「現在の5,000万円」と「35年後の5,000万円」は同じではない
ここは、長期の住宅ローンを考えるうえで忘れてはいけないポイントだと思います。
仮に物価が毎年2%ずつ上昇するとします。
すると、35年間では物価水準は単純計算ではなく複利で上昇し、現在の1万円が持つ購買力は大きく低下します。
逆に言えば、35年後に返済する5,000万円は、現在の5,000万円と同じ購買力を持っているわけではありません。
もちろん、住宅ローンには利息があります。
しかし、金利上昇による利息の増加だけを見ていると、インフレによる貨幣価値の下落を見落としてしまいます。
これが、私が住宅ローンについて考えていて気になったところです。
私の住宅ローンで考えてみる
私の場合、現在の住宅ローン残高は約3,943万円です。
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現在の条件を前提に返済を進めると、定年退職する2032年ごろには住宅ローン残高は約3,060万円まで減っていると考えられます。
では、この約3,060万円は、現在の価値ではどのくらいなのでしょうか。
仮に今後6年間の物価上昇率を一定とすると、概算では次のようになります。
| 年平均インフレ率 | 2032年の名目残高 | 現在の価値に換算 |
|---|---|---|
| 0% | 約3,060万円 | 約3,060万円 |
| 1% | 約3,060万円 | 約2,880万円 |
| 2% | 約3,060万円 | 約2,720万円 |
| 3% | 約3,060万円 | 約2,560万円 |
| 4% | 約3,060万円 | 約2,420万円 |
例えば、インフレ率が平均3%で6年間続いたとすると、2032年の約3,060万円は、現在の購買力に換算すると約2,560万円です。
つまり、
「2032年に3,060万円の住宅ローンが残っている」
という事実だけを見るのと、
「現在の購買力に換算すると約2,560万円の負担」
と見るのでは、印象がかなり違います。
もちろん、これは「住宅ローンの返済額が実際に2,560万円になる」という意味ではありません。
名目額と実質額を区別して考えるための計算です。
では、変動金利の上昇分を考えるとどうなる?
ここで話が少し難しくなります。
インフレによって借金の実質価値が下がる一方、変動金利は上昇する可能性があります。
つまり、
インフレによるプラス
借金の実質価値が低下する
インフレによるマイナス
住宅ローン金利が上昇する
支払う利息が増える
という、正反対の効果が同時に発生します。
そのため、
「インフレなら住宅ローンは得」
とも、
「インフレなら住宅ローンは危険」
とも、一概には言えません。
重要なのは「インフレ率」と「住宅ローン金利」の関係
例えば、
ケース1:インフレ率3%、住宅ローン金利2%
この場合、単純化すると、
住宅ローン金利2% − インフレ率3% = ▲1%
です。
名目上は2%の利息を払っていますが、物価上昇によって借金の実質的な負担は軽くなる方向です。
一方、
ケース2:インフレ率3%、住宅ローン金利4%
なら、
住宅ローン金利4% − インフレ率3% = +1%
となります。
この場合は、金利上昇による負担がインフレによる実質価値低下を上回る可能性があります。
つまり、
インフレ率だけを見るのではなく、住宅ローン金利がインフレ率に対してどこまで上昇するのかを見る必要があります。
ということです。
「インフレ率2%なら政策金利も2%」ではない
ここで、日本銀行の金融政策についても考える必要があります。
インフレ率が2%だからといって、政策金利が2%になるとは限りません。
金融政策を考えるときには、中立金利という考え方があります。
中立金利とは、簡単に言えば、景気を過度に刺激することも、過度に冷やすこともしない金利水準です。
概念的には、
名目中立金利 ≒ 期待インフレ率 + 実質中立金利(自然利子率)
と考えられます。(第一ライフ資産運用経済研究所)
例えば、
期待インフレ率:2%
実質中立金利:0.5%
なら、
名目中立金利は約2.5%というイメージになります。
したがって、インフレ率が2%のときに政策金利が2.5%になることも、十分にあり得ます。
このため、
「インフレ率2%だから住宅ローン金利も2%程度で止まる」
と考えることはできません。
変動金利の住宅ローンを考えるなら、日銀の金融政策や中立金利も含めて考える必要があります。
それでも「借金の実質価値」という視点は重要
ここまで考えると、最初に感じた疑問に戻ります。
ニュースでは、
「住宅ローン金利が上昇しています」
「変動金利の返済負担が増えています」
という話が目立ちます。
これは間違いではありません。
しかし、それだけでは住宅ローンの全体像を捉えきれません。
インフレが進めば、
① 住宅ローン金利が上昇する可能性がある
一方で、
② 借りているお金の実質価値は低下する
という、二つの現象が同時に起こるからです。
さらに、不動産そのものもインフレの影響を受ける
もう一つ忘れてはいけないのが、不動産そのものの価値です。
不動産は金融資産ではなく、土地や建物という実物資産です。
一般的にインフレ局面では、土地・建物などの実物資産にも価格上昇圧力がかかります。
例えば、
住宅ローン4,000万円
不動産の価値5,000万円
だったものが、
インフレや土地価格・建築費などの上昇によって、
住宅ローン3,000万円
不動産の価値6,000万円
となる可能性があります。
もちろん、これはあくまで一例です。
「インフレになれば不動産価格が必ず上昇する」という意味ではありません。
不動産価格は、地域、土地価格、築年数(減価償却)、人口動態、金利、需給など、さまざまな要因によって決まります。
それでも、長期の住宅ローンを考えるときには、
借金だけを見るのではなく、その借金で購入した不動産の価値も一緒に考える
ことには意味があります。
「借金」と「不動産」をセットで考えてみる
住宅ローンを借りている人のバランスシートを単純化すると、
資産:不動産
負債:住宅ローン
です。
インフレによって、
負債の実質価値が低下する
一方、
不動産価格が上昇する可能性がある
なら、住宅ローンを利用して不動産を購入した人にとって、インフレが必ずしも悪いことばかりとは限りません。
ただし、変動金利の場合には、
金利上昇によるキャッシュフロー悪化
という問題があります。
そのため、私は、
「インフレになれば住宅ローンは大丈夫」ではなく、「インフレは住宅ローンに対して、プラスとマイナスの両方の影響を与える」
と考えるようになりました。
住宅ローンを「額面」だけで見ない
住宅ローンは数千万円単位の借金になるため、どうしても「3,000万円」「4,000万円」「5,000万円」という数字に目が行きます。
しかし金利のある世界で、30年、35年という長期間のローンでは、貨幣価値は変化していきます。
例えば、
現在の5,000万円
と、
35年後の5,000万円
では、円の購買力が同じとは限りません。
インフレ率が高ければ高いほど、将来の5,000万円の実質的な価値は小さくなります。
だからこそ、住宅ローンを考えるときには、
「いくら借りているか」
だけではなく、
「どれくらいの金利を払っているのか」
そして、
「将来、その借金をどれくらいの価値のお金で返すことになるのか」
まで考える必要があると思います。
では、変動金利の住宅ローンは心配しなくていいのか?
ここまで考えても、私は
「変動金利の住宅ローンを返済している人は、心配しなくても大丈夫」
とは言えないと思います。
金利が急激に上昇すれば、毎月の返済負担や総支払利息は増えます。
特に、
住宅ローン残高が大きい
収入に余裕がない
退職後もローンが長期間残る
金利上昇に耐えられるだけの預貯金がない
といった場合には、慎重に考える必要があります。
一方で、
「インフレになる → 変動金利が上がる → 住宅ローンは大変になる」
だけで判断するのも、やはり片手落ちです。
インフレによって、
借金の実質価値が低下する
給与などの名目所得が上昇する可能性がある
不動産価格が上昇する可能性がある
というプラス面もあるからです。
私自身はどう考えるようになったか
私は、住宅ローンを契約したときの「5,000万円」という数字を、そのまま将来の負担として考えていました。
しかし、インフレについて考えていくと、
現在の5,000万円と、これから先の35年間のどこかで返済する5,000万円は、額面こそ同じでも、実質的な価値は同じではない
という当たり前のことに気付きました。
もちろん、変動金利が上昇すれば利息負担は増えます。
だから金利上昇を無視することはできません。
でも同時に、
「借金の実質価値はどうなるのか?」
という視点も忘れてはいけません。
長期の住宅ローンでは、この二つをセットで考える必要があるのだと思います。
まとめ:インフレは住宅ローンの「敵」でも「味方」でもある
今回考えてみて、私がたどり着いた結論はシンプルです。
インフレは住宅ローンにとって、敵でもあり、味方でもあります。
インフレが進めば、
インフレ
→ 政策金利上昇
→ 変動金利上昇
→ 利息負担増
というマイナスがあります。
一方で、
インフレ
→ 円の購買力低下
→ 借金の実質価値低下
→ 土地・建物などの価格上昇圧力
というプラスもあります。
ニュースで「変動金利が上昇して住宅ローン負担が増える」という話を見たときも、
「確かに利息は増える。でも、そのとき返すお金の価値は、今と同じなのだろうか?」
と、一度立ち止まって考えてみたいと思います。
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