体験記

“乗れない”を小分けにして解決|認知行動療法と不安階層表で人生を取り戻す

2026年5月5日

これまでの治療は、あくまで「土台作り」でした。

・抑うつ状態を改善する
・日常生活を安定させる
・発作の頻度を下げる

確かに、それはできていました。

でも——

“乗り物に乗れない”という本質的な問題は、何も変わっていなかったのです。

避け続けた先にある現実

仕事を続けていく以上、出張は避けられません。

立場が上がるほど、
むしろ“逃げにくくなる”。

このままいけば、

・乗り物に乗るか
・仕事を手放すか

その二択に追い込まれるのは明らかでした。

そこで私は、主治医に申し出ました。

「乗り物に乗れるようになるための治療をしたい」

認知行動療法との出会い

紹介されたのが、
認知行動療法(CBT)でした。

これはざっくり言うと、

「不安の対象に段階的に慣れていくトレーニング」
です。

そして、最初に取り組んだのが——

不安階層表の作成

これが、この治療の“核”でした。

やることはシンプルです。

自分にとって怖い状況を、
不安の強さ順に並べる。

目安としてはこんな感じです。

0:何の問題もなくできる
50:頑張ればできる
100:絶対に無理

「簡単そうだな」と思いました。

でも、実際にやってみると——

私の不安は「0か100」だった

驚いたことに、
私のリストはこうなりました。

電車:100
新幹線:100
飛行機:100

全部“絶対に無理”だったのです。

これでは、段階的トレーニングになりません。

いきなりラスボスに挑むようなものです。

“条件”を足して分解する

そこで心理士の先生に言われたのが、

「条件をつけて、難易度を分けましょう」
ということでした。

例えば——

・妻と一緒に乗る
・1駅だけ乗る
・電車を各駅停車と快速電車に区分する
・いきなり新幹線ではなく、快速電車をクリアした後の新幹線と考える

すると、不思議なことに、

“100だった恐怖”が、少しずつ分解されていくのです。

最終的に、こんなイメージの表ができました。

各駅停車(1駅・妻と一緒):20
各駅停車(1駅):30
各駅停車(3駅):50
快速電車:70
新幹線:90
飛行機:100

これでようやく、
「トレーニングの地図」ができました。

初めてのトレーニング

思い立ったが吉日。

カウンセリングの帰りに、
そのままトレーニングをすることにしました。

正直、気持ちはかなり前向きでした。

むしろ、

「いけるんじゃないか?」

という根拠のない自信すらありました。

いざ、駅へ

最も低難度に設定した路線の起点駅へ。

拍子抜けするくらい、落ち着いていました。

「設定、甘すぎたか?」

そう思うくらい。

ホームに立つ。

電車を待つ。

アナウンスが流れる。

「まもなく電車がまいります」

……あれ?

少しドキッとしました。

でも、それだけです。

乗車

ドアが開く。

そのまま、普通に乗れました。

心拍数は少し上がっている。

でも、

「パニック」ではない。

車内に入る。

立つ。

周りを見る。

何も起きない。

拍子抜けの成功

結局、その区間は

“何も起きないまま終了”

しました。

正直、少し物足りなさすらありました。

「これでいいのか?」と。

でも、後からわかります。

これはとても重要なことでした。

成功体験の意味

認知行動療法で大事なのは、

“恐怖を感じないこと”ではありません。

むしろ、

「恐怖が来ても大丈夫だった」という経験です。

今回は、そもそも恐怖が弱かった。

でもそれは、

「乗っても何も起きない」という
最初の成功体験になりました。

心の変化

この日の帰り道、

私は少し不思議な感覚を覚えていました。

「乗れるかもしれない」

これまで一度も持てなかった感覚です。

根拠は、たった一回の成功。

でもそれで十分でした。

振り返って思うこと

このとき学んだ、一番大きなこと。

それは——

「恐怖は、分解できる」

いきなり飛行機に乗る必要はありません。

不安階層表を少しずつクリアすることが、
やがて大きな変化につながります。

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