これまでの認知行動療法では、各駅停車、快速電車、快速急行、特急、新幹線こだまと、少しずつ乗車できる範囲を広げてきました。
そして前回は、30分ノンストップの特急に挑戦したものの、乗車直前で足が止まり、途中で回避してしまいました。
「順調に進んでいる」と思っていても、思うようにいかないことがある。
そのことを経験したばかりでした。
そんな中、次の目標として挑戦することにしたのが、新幹線の「ひかり」です。
もちろん、いきなり難しい区間に挑戦したわけではありません。
「ひかり」の中でも比較的停車駅が多く、無停車区間が20~30分程度になる列車を選びました。
「こだま」から「ひかり」へ。
私にとっては、もう一段階上の挑戦です。
そして、この日のトレーニングでは、
往路は最後まで乗り切ることができた一方、復路では途中下車する
という、成功と挫折の両方を経験しました。
しかし、振り返ってみると、この一日は「成功したか、失敗したか」だけでは語れない経験になりました。
「こだま」から「ひかり」へ
これまでのトレーニングでは、
普通電車
↓
快速電車
↓
快速急行
↓
特急
↓
新幹線こだま
というように、少しずつ段階を上げてきました。
新幹線こだまにも乗れるようになり、
「次は、ひかりに挑戦してみよう」
と考えるようになりました。
ただし、ひかりならどの列車でもいいというわけではありません。
例えば、新横浜から名古屋まで長時間停車しないタイプのひかりは、当時の私にはまだハードルが高すぎます。
そこで今回は、静岡県内にも停車する、無停車区間が20~30分程度のひかりを選びました。
私にとって大切だったのは、
「できるだけ難しいことに挑戦する」のではなく、「今の自分が挑戦できる一段上を選ぶ」
ことでした。
乗車前の不安は、以前より小さかった
今回、意外だったのは、前日までほとんど予期不安がなかったことです。
当日、東京駅に着いてからも、新幹線に乗り込むこと自体にはそれほど抵抗がありませんでした。
以前なら、新幹線というだけで強い不安を感じていたはずです。
それが、今回は普通にホームへ向かい、普通に乗車できました。
これまでの在来線でのトレーニング。
そして、こだまに乗れたという成功経験。
そうした積み重ねが、自分の中に残っていたのだと思います。
「以前は怖かったものが、ここまで普通になった」
この変化は、自分自身でも少し驚きでした。
ところが「ひかり」と意識した瞬間、不安が出てきた
乗車そのものには抵抗がありませんでした。
ところが、ひかりに乗ったことを意識した瞬間、これまでとは少し違う不安が出てきました。
問題は、無停車区間です。
品川、新横浜までは問題ありません。
しかし、新横浜を過ぎると、
「ここから20~30分、停まらない」
ということを意識するようになります。
それまでのトレーニングでは、
「もし不安になったら、次の駅で降りればいい」
という安心感がありました。
ところが、今回はそうはいきません。
その前提が崩れたことで、予期不安が出てきました。
「途中で無理になったら、こだまに戻ればいい」
そこで私は、自分を追い込みすぎないことにしました。
「絶対に最後まで乗らなければならない」
とは考えませんでした。
むしろ、
「不安が強くなったら、こだまに乗り換えればいい」
「最後まで乗れたらラッキー」
くらいに考えることにしました。
今思えば、この考え方はかなり重要でした。
「絶対に成功しなければならない」と考えると、乗車そのものが試験のようになってしまいます。
そこで、
「途中でやめる選択肢も残したまま、まずやってみる」
ことにしました。
往路:まずは新横浜まで
東京駅から、ひかりに乗車しました。
品川までは問題ありません。
新横浜までも問題ありません。
そして、新横浜が近づいてきました。
ここから先が、今回の最初の壁です。
「ここから20~30分、停まらない」
そう考えると、一度予期不安が出てきました。
しかし、そこで乗り換えることはしませんでした。
そのまま乗り続けます。
少し眠気もありました。
そのことも幸いしたのかもしれません。
そして、気がつけば新横浜を通過していました。
「次も大丈夫」を積み重ねる
新横浜を過ぎてからは、一気に先のことを考えないようにしました。
「ここまでは大丈夫だった」
「次もいけるかもしれない」
そんなふうに、一つずつ確認していきました。
不安が完全になくなったわけではありません。
それでも、
「不安があるけれど、まだ乗れている」
という経験が積み重なっていきます。
これまでのトレーニングでも、私は似たような経験をしてきました。
最初から最後まで、
「絶対に大丈夫」
と思える必要はない。
その時点でできていることを一つずつ確認する。
今回も、それを繰り返しました。
名古屋が近づいて、また不安が出てきた
そして、名古屋が近づいてきました。
ここまでかなり長い時間、新幹線に乗っています。
「ここまで乗れている」
という自信がある一方、
「本当に最後まで大丈夫だろうか」
という気持ちもありました。
そこで私は、
「ここまで2時間乗れている」
「残り1時間なら大丈夫だろう」
と考えました。
すると、少し落ち着きを取り戻すことができました。
そして――
往路は、最後までひかりに乗ることができました。
「ひかり」に乗れたという成功
新幹線を降りたとき、
「ひかりに乗れた」
という実感がありました。
こだまではなく、ひかりです。
しかも、途中の無停車区間を越えて、最後まで乗ることができました。
これまでのトレーニングで積み上げてきたものが、一つ形になったように感じました。
「次は、のぞみも視野に入ってくるかもしれない」
そんな気持ちも出てきました。
しかし、この日の本当の学びは、ここからでした。
復路では、予期不安が強くなった
帰りも、同じタイプのひかりに乗りました。
ところが、往路とは明らかに気持ちが違いました。
乗車前から、予期不安が強くなっていたのです。
なぜだろう。
帰りも同じように乗ればいいだけなのに。
その理由を考えてみると、一つ思い当たりました。
往路では、
東京 → 品川 → 新横浜 → 静岡 → ・・・
というように、少しずつ距離を伸ばしながら、
「ここまで乗れた」
という成功体験を積み重ねることができました。
ところが復路では、
新大阪 → 京都 → 名古屋 → ・・・
最初から長い区間に向き合うことになります。
つまり、
「少しずつ慣れていく」という支えがない状態で、いきなり長い無停車区間に入る
ことになります。
これが、自分にとってはかなり大きな違いでした。
乗車後、頭の中で考えが行ったり来たりした
新大阪で、ひかりに乗車しました。
しかし、気持ちはなかなか落ち着きません。
頭の中では、さまざまな考えが行ったり来たりしました。
「大丈夫かもしれない」
「いや、やっぱり無理かもしれない」
「往路では乗れた」
「でも、復路は条件が違う」
「このまま乗り続けられるだろうか」
「途中で降りたほうがいいのではないか」
呼吸法も試しました。
これまでに覚えてきた方法も使いました。
それでも、今回は不安を十分に抑えることができませんでした。
京都で途中下車することにした
そして、私は京都で下車することにしました。
往路では最後まで乗れたのに、復路では途中下車。
結果だけを見ると、失敗です。
正直に言えば、
「せっかく往路で乗れたのに」
という悔しさはありました。
「やっぱり自分にはまだ早かったのかもしれない」
とも思いました。
しかし、ここで以前の自分とは少し違うところがありました。
途中下車したことだけを見て、「全部ダメだった」とは考えなかったのです。
なぜなら、その日の往路では、実際にひかりに乗って最後まで行くことができていたからです。
途中下車した後、こだまに乗った
京都でひかりを降りた私は、その後、こだまに乗りました。
京都から米原まで、およそ26分です。
ここは、以前(こだまの乗車練習時)の私なら乗ること自体が難しかった区間です。
ところが、この日はスムーズにこだまに乗ることができました。
この事実に気づいたとき、少し気持ちが変わりました。
「ひかりに最後まで乗れなかった」
という事実だけを見るのではなく、
「以前は難しかった26分の区間には、今は乗ることができている」
と考えることができたのです。
「できなかったこと」と「できるようになったこと」は同時に存在する
この日の経験から、私はとても大切なことを学びました。
人は、
「できた」か「できなかった」かの二択で、自分の状態を判断しがちです。
しかし、実際にはそうではありません。
今回の私は、
ひかりには最後まで乗れなかった。
一方で、
こだまには乗ることができた。
さらに、
往路ではひかりに最後まで乗ることができた。
この3つは、すべて同時に事実です。
だから、
「ひかりに乗れなかった=振り出しに戻った」
ではありません。
むしろ、
「ひかりに挑戦できるところまで来た。でも、復路の長い無停車区間にはまだ課題がある」
と考えるほうが、今の自分の状態を正確に表していると思いました。
今回の挑戦で分かったこと
今回の新幹線ひかりへの挑戦から、私はいくつかのことを学びました。
1.同じ課題でも、往路と復路では難しさが違う
往路では、少しずつ距離を伸ばすことができました。
そのため、
「ここまで乗れた」
という成功体験を、その都度積み重ねることができました。
一方、復路では最初から長い区間に向き合うことになります。
同じひかりでも、自分にとっての難しさは同じではありませんでした。
2.成功体験は大きな支えになる
今回、往路で最後まで乗れたことは、復路で途中下車した後にも意味がありました。
「少なくとも、ひかりに最後まで乗れることは分かった」
という事実が残ったからです。
一度の挫折で、その成功まで消えるわけではありません。
3.「途中でやめてもいい」と考えることが、挑戦を支えることもある
今回、
「最後まで絶対に乗らなければならない」
とは考えませんでした。
「無理ならこだまに乗り換える」
という逃げ道を残していました。
そのことで、少なくとも往路では挑戦を続けることができました。
私の場合、最初から完璧な成功を求めないことが、挑戦するための支えになったのだと思います。
4.途中下車しても、それまでの努力が無駄になるわけではない
これが、今回一番大きかった学びです。
京都でひかりを降りました。
でも、その後こだまには乗れました。
そして、そもそも往路ではひかりに最後まで乗れています。
一度の途中下車だけを取り上げて、
「失敗した」
と決めつける必要はありません。
認知行動療法は「毎回成功すること」ではなかった
今回の経験を通じて、私の認知行動療法に対する考え方はさらに変わりました。
最初は、
「できることを一つずつ増やしていく」
というイメージでした。
それは確かに間違っていません。
しかし、実際に続けてみると、
できるようになる
不安が戻る
できない日がある
またできるようになる
新しい課題に挑戦する
途中で止まる
ということが繰り返されます。
つまり、必ずしも一直線に進むわけではありません。
今回の私は、ひかりに乗れました。
そして、ひかりから途中下車もしました。
その両方が、私の実際の経験です。
次の目標は「30分以上の無停車区間」
今回の経験から、次の課題も見えてきました。
それは、京都―名古屋のような、
30分を超える無停車区間でも、不安が出たときに落ち着いていられる経験を積むこと
です。
こだまでは乗れる。
ひかりの一部区間も乗れる。
しかし、30分を超える長い無停車区間では、まだ不安が強くなる。
自分の現在地が、かなり具体的に見えてきました。
これは、単に「失敗した」というよりも、
次に何を練習すればいいのかが分かった
ということでもあります。
「ひかりに乗れた日」と「途中下車した日」
今回の新幹線ひかりへの挑戦を振り返ると、
「成功だったのか、失敗だったのか」
と聞かれれば、私は今ならこう答えます。
どちらでもありません。
往路では成功しました。
復路では途中下車しました。
そして、その後こだまには乗ることができました。
だから、この一日全体を、
「自分がどこまでできるようになり、どこにまだ課題があるのかを確認できた一日」
と考えています。
認知行動療法のトレーニングでは、毎回きれいに階段を一段ずつ上がれるわけではありません。
一段上がったと思ったら、少し戻ることもあります。
それでも、以前いた場所と現在地が同じとは限りません。
今回の私は、まさにそれを実感しました。
「こだまに乗れるようになった自分」がいる。
「ひかりにも挑戦できた自分」もいる。
そして、「ひかりではまだ途中下車することがある自分」もいる。
そのすべてを含めて、自分の現在地なのだと思います。
もちろん、これは私自身の体験です。
パニック障害の症状や治療経過、認知行動療法への取り組み方には個人差があります。同じ方法や考え方が、すべての人に当てはまるものではありません。
それでも、この日の経験から私は、
「一度できたことは、できなかった日の存在によって消えるわけではない」
ということを学びました。
そして、その感覚は、その後のトレーニングを続けるうえで大きな支えになっていきました。
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